社長に聞かれた。
「当社はなぜ負け組みになってしまったのかね?」

私はこう答える。
「それはどの企業にもある事業変化の過渡期をEnjoyできなかったからですよ」

この本=弁護士の仕事術には、「見方を変えればまったく違ったものになる」という項がある。要約すると、「海賊版の取り締まり関わる訴訟では、不正品を輸入する企業の立場に立てば、”大資本が弱小企業に不当な圧力をかけている”となるが、正規品のメーカーからみれば、”先行投資して作り上げた著作物の回収利益を、ただ乗りして権利を侵害している”と。

企業の転換期におこる過渡期の足踏みを、失敗としてみるか、Enjoyすべき試練として捉えるか。TOPは、失敗の責任者を探すPenaltyに走るのではなく、人材を育成する好機としてEnjoyする姿勢を持ってほしい。

どんなにうまくいった事業でも、いや、うまくいけばいくほど、競争者が出てきて価格競争や技術競争、サービス競争になり、同じところにとどまってはいられない。そして改良や改善にも限界があり、市場も飽和し、技術も陳腐化し、なによりもニーズが変われば、企業も変化していかざるを得ない。そして、この変化は魔法のようにドロロンといくわけがなく、必ず過渡期を経て新しい構造に転換していく。そこには、変化をきらったり、恐れたり、将来への不安から無意識にブレーキをかける力も働き、また、新しいことであれば必然的に、試行錯誤も伴う。そして踊り場で足踏みをするのである。

このとき。つまり、思ったように事業転換がはかれないとき、事業がうまくいかないとき、「過渡期をEnjoy」することができれば、事業構造の転換を図れるのだ。企業は人だ。人はねたみやっかみ、あるいは返り咲こうとするものだ。過渡期の踊り場では、こうした策略もよく起きる。そして、責任追及合戦になり、かつて冷や飯を食った人々が返り咲きを狙って、改革の改革を提案する。企業TOPも株主からのプレッシャーで、過渡期をEnjoyできず、失敗者にPenaltyを課し、再改革に同意してしまう。これが普通だろうとは思うが。