「会社をやめようと思うんです」

相談を受けると僕は引き止めるということをあまりしない。本人がそれなりに考えて決めたことだから、たとえ先が見えていたとしても、先に見た映画のネタバレに等しいと思っているので、あれこれといわないことにしている。

 今は一つの会社に就社する時代ではない。新たな環境を求めて、次へ次へとSTEPUPを図ることが当たり前のようになっているし、転職を斡旋する事業者も数多く存在している。しかし、僕は本質的に転職に意義を見出していない。

仕事は、「○○株式会社のemansです」というスタンスでするべきではないと思っているからだ。現在の会社に入ったときから、「emansです。」と名乗るようにし、社名は言わないようにしてきた。名刺に書いてあるから相手は社名で見ているのかもしれないが、それでも、名前だけを言うことにこだわってきた。
「会社を辞める」これは、それまで築いてきた関係をリセットすることでもあり、新たな環境を再構築することに他ならない。関係のリセットとは、人間の関係・・・同僚や上司、部下、客先やパートナー、社会保健や信販会社、友人、ご近所、親兄弟や親族に対しても自分の属する会社を再度連絡し、心配させたり期待させたりするだけでなく、説明しなくてもわかってくれる阿吽の呼吸のような関係部分までを含むリセットになるはずである。今と同じ関係になるまでに要するパワーと時間がどれくらいかかるのかもわからない状態の筈である。

 思い上がった考えかもしれないが、自分の仕事の質は会社を変えたくらいでは変わらないと思う。所属している会社ですらできないことを、新たな環境構築もしながら新しい会社でするなんてできるわけがないのだ。そんな無駄なことに人生を浪費するなら、現状を破壊するくらいのパワーで、周囲を自分色に染めていくほうがよっぽど有意義だし、短距離だと思う。

是非、自分の名前ご指名で仕事が入ってくる人になって欲しい。会社を替わるのは、自分があまりにも強力なパワー過ぎて追い出される時くらいでいて欲しい。所属会社なんかに囚われずに、自分の仕事の品質を維持して、周囲を振りまわしていって欲しいと「会社をやめようと思う」人に願うのである。